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旅の欠片 弐 始まり

 はじめから理解していたはずじゃないか。この旅に終わりなどないということに。探している者が亡き今、旅をする理由などもうない。いや、はじめからなかったんだ。
 この旅路のばかばかしさに気づいたのは、もう引き返せないほどの距離を歩いた末。懐かしき故郷になど、戻る途中で命が尽きるだろう。
 私は逃げているのだろうか。そうだ、そう考えればしっくりくる。
 はは、笑いものだ。旅の理由が逃げるためなど、格好つかないことこの上ない。
 亡き人の死を受け入れられず、逃げた果てに何があるというのだ。
 そのことに気づいたときには、もう遅すぎた。いまさら個人の死を受け入れても、それを良きことと評するものなどどこにいようか。
 さて、長い道のりを歩んできた。目的の一つは意味のないものとなった。では、次の目的は何としようか。
「おや、こんなところに旅人とは珍しい」
 突如話しかけてきたのは、まだ幼さの断片がかすかに残る好青年。彼の笑顔は好印象としか形容できない。しかし、どこかおかしな雰囲気を感じた。まるで待ち構えられていたかのような、そんな漠然とした不安。
「こんにちは」
 わたしは気さくな風をよそおい、会釈した。
「私は旅人というわけではありません。さながら放浪人とでもいったところでしょうか。行く当てがないのでね」
「そうですか。では行く当てを示してあげましょうか」
 私は彼の言葉に、いぶかしげな顔で返す。胡散臭いにも程がある。
「そんな顔しないでください。ほら目を閉じて」
「財布でも取るつもりですか。ならあいにくですが手持ちは……」
 青年は真剣なまなざしでこちらを見つめていた。その視線に私は、凍りついたように口をつぐむ。そして導かれるように、静かにまぶたを閉じた。
「あなたはどこへ行きたいのですか」
 青年はおごそかな口調で語りかける。そこに、先ほど感じた幼さは、微塵の欠片もない。
「亡き友のもとへ」
「しかしそれは叶わないと諦めている」
「そうです」
「……」
「……」
 長い沈黙。青年が何をしようとしているかは分からない。願いを聞き入れて、私の命を絶とうとも構わなかった。
 それほどに、かの人は、大切で、私の人生そのものといっても過言ではなかった。かの人が亡くなったとなっては、私は死んだも同然。私だけの人生など想像しようもない。今まで生きていたのが不思議なほど。
 長い沈黙の中、そんな諦めと、絶望が胸の内を占め渦巻いていた。その沈黙もやがて青年の言葉で破られる。
「目を開けてください」
 彼の言葉に従い、そっとまぶたを開く。暗闇に長時間閉じ込められていたかのように、目の前に広がる世界はまぶしく感じられた。
「ここは」
「あなたの目的地ですよ」
 青年はそう言うと、まるで何事もなかったかのようにきびすを返す。
 その背を追おうと足を動かしたとき、妙な違和感があった。長い旅路で疲れ衰えたはずの身体。それがまるで少女時代に戻ったかのように軽い。
 驚き手を見る。かわいて、しわだらけの様子はまるでない。
 本当に私は少女へと戻っていた。
 顔を上げると、先ほどの青年が振り返り一言告げた。
「あなたにはまだやり残したことがあるはずです」

 これが私の新たな旅の始まり。終わったはずの旅路の続き。
 私の身体は、かつて愛しき人と別れた時間を思い出し。そして、ここはかつて彼女が旅をした果ての世界。
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テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

図書館の住人

樹


好物:百合、ファンタジー
傾向:眼鏡キャラ、マイナーキャラ

好きなカプは、ひだまりスケッチは沙英夏目、なずのり、マリみては蔦笙、けいおんは唯和、ストパニは渚玉、などなど。

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