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音の欠片 弐 音羽(前)

「見えた?」
 不安げに訊ねる母の声に、私は望遠鏡を覗き込んだまま応える。
「今日は天気が悪くて、よく見えないよ」
 屋根の上から見上げる空は曇り模様。太陽の光も頼りなく、影もできないほどだ。
 ここは小高い丘の上に連なる家々の一角で、見下ろせば活気漂う港町が一望できる。弓状の海岸線の向こうは、白波押し寄せる日本海だ。荒波に負けじと、漁船が踊りカモメ達がそれをはやし立てる。
 漁をはやくに終え、海が荒れる前に帰還しているのだろう。
「一雨くるかも」
 水平線の向こうまで、厚い黒雲は広がっている。いつもよりも湿った空気に感じるのは、海から運ばれてくる水気のせいのみではないように思えた。
「無事にこれるかしら?」
 母はなおもウサギがおびえるようにふるふると震えている。いい大人なのだからしっかりしてと言いたいところだが、事が事だ。母が心配するのは無理ない。
「大丈夫。今までだって無事に届いたんだから」
「そうね。でも」
「でももなにもないの! 私達はただ待っていればいいの。もし、待って待ってそれでも来なけりゃ、こっちから飛んでいってやるんだから」
 弱音を吐く母に向かい、ぴしゃりと言い放つ。となりでこくんとうなずいたような気配がした。私は望遠鏡のほうに気を集中させていたから見えなかったけど、先から感じていた母の不安は今は消えているように感じられた。
 ずっと目を細めてレンズをのぞいていたので、少しの間はなしてごしごしと目をこする。目に悪いとは分かっていたけど、つい反射的にやってしまう。
 また頼りない小さな円筒に目を近づける。
 あれ? 何か視界がぼやけているような。
 あわてて望遠鏡を逆さまにしてみると、一粒の水滴がついていた。服の端でぬぐったとき、いきなり額に冷たい感触がして、思わず「ひゃぁ」と飛びのいた。
 空を見上げてみる。
「雨だ」
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テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

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図書館の住人

樹


好物:百合、ファンタジー
傾向:眼鏡キャラ、マイナーキャラ

好きなカプは、ひだまりスケッチは沙英夏目、なずのり、マリみては蔦笙、けいおんは唯和、ストパニは渚玉、などなど。

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