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音の欠片 弐 音羽(中)

「今日はもう来ないかなあ」
 再び望遠鏡を覗き込み、降りしきる雨を視界に眺めながら、私はつい弱音を吐いてしまう。
「来る」
 母は強い口調で言い切った。まるでさっきと逆だ。
 一旦屋内に戻ろうとも言いづらい雰囲気だった。雨足が少しずつ強まる中、ただ待つ作業はつづいた。
 雨は一向に上がる気配はない。水平線の向こうまで暗雲は広がり、遠くで雷鳴が響いた。不安は空の模様を写すかのように広がっていく。
 遠かった雷鳴もいつの間にか近づき、時折ひらめく稲妻と轟音に身をすくめる。雨はなおも激しく、いつのまにか水平線の影も見出せなくなっていた。
 それでも動じない母に、私はしがみつくように寄り添う。夜を告げる鐘が響くまでは、決してこの望遠鏡を支える手は離すまい。
 今日が最後の機会なのだから。
 また雷光が走る。街を包み込むような光の帳に、間近で花火を打ち上げられたような音が追いかける。近くで落ちたのかもしれない。
 あれ?
 光の幕が開く一瞬、何か小さな鳥のようなものが見えた気がした。気のせいかもしれない。雨の壁は厚くすぐに何も見えなくなる。
「来た!」
 え?
 母の大声に、慌てて望遠鏡にうつる視界をすみずみまで見渡す。
「耳を澄まして」
 言われたとおりに、聴覚のみに集中する。目は閉じて、音だけを探す。
 聞こえるのは鳴り止まぬ雨と雷の大合奏。屋根を、地面を叩き、雨の騒音はほかの音を隠してしまう。それにかぶさる雷鳴は、すべての音を消し去ってしまうかのように鼓膜を揺らす。
「聞こえないよ!」
 声を張り上げても、近くにいる母に聞こえるか不安なくらい、街には音があふれていた。その中から一つの音を探すなんて。
 ポロン
 優しい音がした。竪琴を鳴らしたような音。こんなか弱い音が届くわけがない。だからこれは幻聴なのだろう。あまりのうるささに、ついに耳がおかしくなったのかもしれない。
 ポロン
 なおもか弱い音でなき続ける。
 心が泣いているのかな。だからそれに呼応して心が音を奏でているのかな。
「目を開けてごらん」
 母のなでるような優しい声がした。
 はは、無理だよ。こんな嵐の中でなにも見えるわけがない。こんなうるさい中で音が聞こえるはずが……あれ? 優しい声?
 母の声は、決して張り上げるほど大きなものではない。それでも届いた。
 ポロロン
 まるで呼んでいるかのような鳴き声。そういえば今聞こえるのは、その竪琴の呼び声だけだ。
 おそるおそる目を開く。
 そこには、音のない嵐の中、宙に浮かぶ小さな二つの翼があった。
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テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

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図書館の住人

樹


好物:百合、ファンタジー
傾向:眼鏡キャラ、マイナーキャラ

好きなカプは、ひだまりスケッチは沙英夏目、なずのり、マリみては蔦笙、けいおんは唯和、ストパニは渚玉、などなど。

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