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音の欠片 弐 音羽(後)

 羽毛に覆われたピンポン玉ほどの白い球体に、それより一回り大きい純白の羽をはばたかせ、小さな鳥は宙をただよっていた。
 音羽と呼ばれる鳥。
 通常は群れを成して飛来するが、今日のこの悪天候に、多くの鳥達はたどり着く前に力尽きたのかもしれない。
 音羽は、おもちゃのような羽をせっせと動かし、私と母の間に近づく。その必死なさまはどこか微笑ましく思える。
 母がうなずいたのを見て、私は音羽に手を差し出した。鳥ははばたく速度ををゆるめ、ゆっくりと両手のひらの中に納まった。
 音羽は音を支配する鳥といわれる。辺りは無音。そしてこれから響かせる音は遠い地より届く音。大切な人よりの贈り物。
 目も口もないように見えるほどの体毛に包まれた頭。それを包み込むように翼が折りたたまれる。
 数泊おいて、今度は勢いよくその翼を天へとひろげた。
 それを合図に、どこからかピアノの伴奏が聞こえた。小さな音はやがて近づいてくる。目の前の鳥が奏でているはずなのに、まるでこの街全体が音を奏でているかのように感じた。
 やがて弦楽器、管楽器の重奏が連なる。
 優しい音色。
 目を閉じると、海を渡る鳥の姿が浮かんだ。
 優雅に、自由に、風とともに踊る。
 この歌は故郷を去り、遠い異国より届けられし思い。
 大切な、父よりの手紙。
 演奏はあっという間に終わった。
 もっと聞いていた。
 それなのに、鳥の、街の、歌声は遠くなり、やがて静かに眠る。
 毎年、この瞬間妙な郷愁を覚える。ここが私の故郷なのに、だ。あの歌には本当の故郷が隠されているような気がする。
 父がいたころの、本当の故郷が。
 幸せな時間は過ぎ去った。そしてまた、父はまだ遠い海の向こうで生きているのだと実感するのだ。
 それは悲しいこと? それとも……
「ありがとう」
 私はつぶやき、鳥をのせた両の手をたかだかと空に掲げる。
 見上げれば、空はいつの間にか晴れ渡っていた。天上に輝く太陽の光を受け、音羽の翼も紅く輝く。どんな宝石よりも美しい輝きに思えた。
 その純白の羽を広げ、鳥は飛び立った。
 数分の止まり木を離れ、自由となった鳥は、ポロロン、ポロロンと嬉しそうに鳴きながら、海の向こうへと旅立ってしまった。
「帰ろっか」
「うん」
 母の声に私は名残惜しくもうなずいた。

 この街では遠い地への手紙の代わりに音羽を使う。
 家の中では幾羽もの白い鳥達が楽しげに歌っていた。
 さて、今度はこちらがおくってやらなきゃ。
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テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

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図書館の住人

樹


好物:百合、ファンタジー
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好きなカプは、ひだまりスケッチは沙英夏目、なずのり、マリみては蔦笙、けいおんは唯和、ストパニは渚玉、などなど。

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